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初めてのトウナンアジア 〜中編〜
 









「オ兄サン、部屋探シテルノ?」


あくる朝、牢獄の様な部屋と少しでも早くおさらばしようと荷物をテキパキとまとめて宿を出た僕に2軒隣の客引きが声を掛けてきました。


その日本語の上手さと言ったら、セルジオ越後以上です。

いつもの値段交渉を開始しました。

ちょっぴり安くしてくれたので、部屋を見せてもらい、清潔で小奇麗だったのでここに泊まる事に決めました。

このゲストハウス(ユースホステルの個人経営バージョンで、アジアに多く、ユースより遥かに安い)の名前は ハローゲストハウス。
さっき声を掛けてくれたのはオーナーで、名前はウォンさん。

20代後半くらいの女性。

部屋はドミトリーで4人部屋。
光は入ってくるし、ウォンさんと従業員のおばちゃんはフレンドリーだし、なぜか本棚には日本の漫画がめちゃめちゃ並んでるわで大満足でした。

僕はさっそく忘れてしまったパンティと靴下を買いに町へ繰り出しました。手ごろなパンティと靴下が見つかり、アジアのマストアイテム蚊取り線香も買いました。

それと、バンコクはTシャツも可愛くて安いので2枚買いました。

宿に帰ろうと幅1mくらいの狭い路地を歩いていると、向いから日本人が歩いてきたので、少しよけ道を空けました。


すると、彼は中学の時同じ塾で、高校の時の隣のクラスの増山くんでした。

外国に来てこんな狭い路地裏でばったり出会うなんて、なんという偶然でしょう。




「おぉ!増山くんやんっ!」

「あ、あぁ・・・!」



ただ、一度も同じクラスになった事がなかったので、ほとんどしゃべった事もなくお互い顔だけ知ってる関係なので微妙です。




「じゃ、じゃぁ・・・。」


「うん、じゃぁ・・・。」






かなり貴重な出会いをたった二言でクロージングさせた後、宿に戻り、特にする事もないので、フロントにある本棚のツルモク独身寮を取り出し読みふけりました。

この漫画がずらりと並ぶ本棚の前には、僕の様な暇な日本人がたくさんたかって来るので、すぐにみんなと仲良くなれます。

ここには、これからアジアを巡る人、巡り終えた人、バンコクから次の目的地へ飛行機で向かう人。

様々な思いを持つ旅人達でいっぱいです。

そうここカオサンは旅人達のスクランブル交差点なのです。








次の日、バンコク市内にあるカンボジア大使館へと向かいました。
今回の旅の目標は、タイ、カンボジア、ベトナム、中国、ラオス、タイと巡る5カ国、陸路国境越えです。

ガイドブックでは国境でもカンボジアビザが取れると書いてあるのですが、僕にとっては初めての陸路国境越え・・・。

もしかして、何かのハプニングに巻き込まれ越境出来なくなるかもしれないと考え、事前にバンコクにあるカンボジア大使館でビザを取得する事にしたのです。



朝一番からバスで大使館へ向かい、必要書類を記入し、お金を払いました。

ビザの受け取りは、Yシャツのクリーニング感覚で、今日の夕方に仕上がると言うのです。なので、夕方まで時間を潰し、再度大使館に取りに行きました。


ビザの次はカンボジアまでのツアーの申し込みです。


バンコクからアンコールワットのあるシェムリアップという町までは、カオサンから出てるツアーで行くのがもっともポピュラーなのです。

カオサン通りにそのツアーを扱う旅行代理店がいっぱいあるので、大使館から戻ってきた僕は、数件周り一番安いところを見つけだしました。


ただ、残念な事にもう夕方なので、明日のツアーは既に締め切られてしまっていて、明後日のツアーにしか申し込めないというのです。

しっかりと事前に下調べをしておき、ビザを朝申し込み、ツアーは昼間に申し込み、夕方にビザを取りに行ったら明日には出発出来たのに・・・。


不必要な一日をバンコクで過ごすハメになってしまいました。この旅は2ヶ月で5カ国周遊。
期間もたぶん2ヶ月で行けるだろうと言うなんの根拠もない計画なので、一日一日はとても貴重なのです。

もしかしたらこの後この一日で旅の行方が大きく左右されるかもしれない。

そう考えるとなお後悔が込み上げてきます。

ただもうこうなった以上、後悔し続けてても何も始まりません。仕方なく明後日のツアーに申し込みました。






それにしても、明日何しよかな・・・。






結局、何をする訳でもなく、次の日は手持ち無沙汰で、ツルモク独身寮にお世話になるハメになってしまいました。

ふと、あの不思議な違和感が僕の心に涌いてきました。










そういえば、昨日からなんかいつもと勝手が違う・・・。









出発前にも感じたあの心の内側にこびりつく不吉な予感・・・。


ただやっぱりこの不吉な予感の根源が何なのかは全く判りません。

こういう場合はどんなに頭を振り絞っても判らないので、じっと時が経つのを待つしかありません。パンティを忘れた時も、結局は着替える時になって初めて気づけたくらいです。




平常心を保ち、慌てず、騒がず、深〜く深呼吸して、ツルモク独身寮を熟読する事にしました。







そうする事、数十分・・・・。












あっ!?










無い!?






無いっ!?



無いっ!!!???






腹巻貴重品ベルト〜っ!!





あの中には、パスポートから帰りの航空券、ドルキャッシュ、トラベラーズチェック、海外保険証と旅のライフラインがぎっしり入っているのです。



僕は慌てて3階の自分の部屋に向かって、階段を駆け上がり、バックパックに飛びつきました。


そして、中の荷物を次から次へと外へ放り投げました。







絶対にこの中にあるはずっ !


きっと昨晩、寝ぼけてて、このバックパックの中に無意識にしまったに違いない。









荷物をあさりながらも、2年前ツアーでバンコクに来たときガイドさんが言ってたセリフがフラッシュバックしてきました。




「旅行中ノパスポート命ノ次ニ大事デスノデ絶対ニナクサナイデ下サイネ。」





命の次に大事パスポート



とすると、きっと
命の次の次に大事であろうドルキャッシュ!


とすると、きっと命の次の次の次に大事であろうトラベラーズチェック!

とすると、きっとその次の次の次の次に大事であろう保険証!

とすると、きっと命の次の次の次の次の次大事であろう帰りの航空券・・・!







一体、命の何親等先までが行方不明に・・・・。





ここまでくると、もはや・・・、




この次に貴重なものが考え浮かばない・・・。







これは夢だ。



そうだ。



悪夢だ。



僕に限ってこんな悲劇が起こる筈がない。



僕に限ってこんな事・・・。















無常にも、バックパックの中にはもう投げ捨てる中身は無く、からっぽ・・・。



とすればベットに違いないっ!!



ベットの下を覗き込んでも結果は同じく無情。



ベットの掛け布団をを引っぺがしても・・・。







生まれて初めて僕の背中を冷たい冷たい汗がびっしょりと濡らしていました。背中に汗をかいたのは後にも先にもこの時一回きりです。


その後、僕の脳みそは、超高速でこの1日間を回顧し始めだしました。


カンボジア大使館に提出していたパスポートが返ってきてからの丸1日の僕の行動を。



ご飯を食べたり、町をぶらついたり、寝たり、ツルモク独身寮をを読んだり・・・。








あっ !



そうや !



風呂場やっ!!


風呂場でシャワーを浴びた時に、腹巻ベルトを外して、間仕切りの壁へ掛けたまま忘れたんやっ!!









その瞬間、僕の足は猛ダッシュで、シャワールームのある一階に向かって、階段を駆け降りていました。


シャワールームに着くやいなや、ドアのノブを手荒く回し、中へと駆け込みました。


そして、昨日浴びていたシャワーの所まで駆け寄ると、間仕切りの壁の上を見上げました。





すると、そこには貴重品ベルトの影も形もありません・・・。





シャワーを浴びたのは昨日の晩だから、あれから丸一日も放置されているはずもないか・・・。







ただっ!!





もしかすると、誰か親切な足長ボーイが宿のウォンさんに届けてくれたかもしれないっ!!












そうひらめいた瞬間、再び体が急に動き出し、駆け出しました。


もちろんフロントのウォンさんの所へ。



フロントにウォンさんの姿を見つけました。



ウォンさんに駆け寄り、そして、ありったけの勇気を込めて尋ねました。









「エッ!?ソンナノ届イテナイヨ・・・。」









あまりに無常なその言葉は僕の全身の気力と言う気力の全てを奪って行きました。








もう探すところがない・・・。








今まで、ありとあらゆる可能性を導き出したフル稼働の脳もピタリと止まってしまい、とめどない不安と恐怖が襲ってきました。



「コノ宿デ盗難ナンテ・・・。」


ウォンさんが小さくつぶやきました。



そうです。



ここは財布を落としても交番に届く様な平和な国、ニッポンなんかじゃなく、気を付けても盗みが身に降りかかってくる
東南アジア









換言すれば









盗難アジア・・・。













盗難はもちろん盗みを働いた者に非がありますが、一瞬でも隙を見せた被害者にも多くの非があります。ましてや、僕は落し物をしてしまいました。






返ってくるはずがない・・・。






その後、部屋に戻り、茫然自失になった僕は、だんだん目の焦点が合わなくってきました。





なぜ、もっと注意力を持って行動しなかったんだろう・・・。


パスポートの大切さをちゃんと判ってたはずだったのに。


いや、本当は全く判ってなかった。


人が大切だと言うから、頭で理解したつもりになってただけだった。


でも、もうそんな事はどうでもよくなってきた。





もう日本に帰りたい。





旅を続ける自信がなくなってきた。





とりあえずパスポートを再発行しに行こう・・・。







いや、待てよ・・・!





その前にする事があった・・・





一刻も早くトラベラーズチェックを止めなければ・・・。
















       初めての盗難アジア 〜中編〜

               おわり