題) 青春18切符の旅  投稿者 直也 さん




高校を卒業した18歳の夏。

僕たちは、人生で初めての「旅」に出ました。

たおたんをのぞく安曇川4兄弟です。
おなじみK、友彦。そして僕。



「青春18切符を使って、始発で滋賀県のT島郡を出発。
       ↓
九州の別府温泉まで」




これが、人生で初めて決めた僕たち三人の旅のプランでした。



要するに、ノープラン・・・。



あとは、電車の中が鬼のように暇に違いないから、そこで決めようということになりました。


で決まったのが、



「 別府温泉
   ↓
 湯布院
   ↓
 スペースワールド
  ↓
 帰宅 」




※ここで友彦だけ九州にのこり、一人旅をして阿蘇山のカルデラを見に行くので、Kと僕は帰路へ。

ということになりました。


で、初日、いきなり中国地方で山陽を通るはずが、乗り継ぎを間違えて、山陰の方に行ってしまうというミスがあり、別府にはたどり着けませんでした。
ただ、何とか初日の目標であった大分県内にはギリギリ入ることができました。

で、大分県での、てんやわんや男三人組の旅の時間は、飛ぶように過ぎていきました。


スペースワールドも男三人でキャッキャいいながら、楽しみました。




で、いざ友彦と別れてKと二人で帰る時が来ました。

二人で友彦を見送り、「じゃあ帰るか・・・」と、Kとまた鈍行列車に揺られながら滋賀県T島郡を目指しました。


福岡県出発が昼ごろだったこともあり、夕方にやっと辿り着いたのが広島です。

このペースでは、今日中に滋賀に帰ることはもちろん無理そうです。

気楽な学生は、全然急ぐ理由もないので、僕が


「青春18切符でフェリー使って、宮島行けるみたいやから、宮島いこーや!」


とKを誘うと、


「それええなぁ!」


と、有名な観光名所には目がないK君はすぐにノって来てくれました。

何とか二人は、宮島行きの最終フェリーに間に合い、よかったなぁといいつつ厳島神社を見て、鹿と戯れ、二人で、海辺に沈んでいく夕暮れを見ていました。

ここでふとKがあることに気づきました。



「っていうか・・・どうやって帰るん・・・・?」


そうです!

僕たちが乗ってきた船は最終便。

今、笑顔ですれちがう観光客達は、今夜の宿が決まってる勝ち組ばかりなのです!

急にあせりだしたK。



K「なあ・・直也どうする?」



今まで貧乏旅行やったし、今日は贅沢しようや!

なんか修学旅行でとまったような旅館で、豪遊しようや!!




K「それ、いいなぁ!そうしよ!!」




そうです。

今まで貧乏旅をしていた為、ちょっと贅沢するくらいのお金はあったのです。

逆にテンションがあがりだした僕たちは、とりあえず歴史のありそうな旅館から、飛び込み営業のように、手当たりしだい飛び込んでいきました。







一軒目の旅館




フロント「本日は、満室です」





2軒目の旅館



フロント「本日は、満室です・・・」


・・・んんんんん・・・・





3軒目




フロント「本日は、満室です・・・」







・・・んんんんん????・・・・








4軒目




フロント「本日は、満室です・・・」







なんでやーーー!!!








行く宿行く宿満室・・・。

宿の人に聞いてみると、観光シーズンでどこも団体客でいっぱいみたいなのです。



2人のテンションは、だだ下がり・・・



「しょうがないなぁ・・・安宿かどっか泊まるか・・・。」


K「そうやな・・・。」



Kのテンションがあまりに低いので、申し訳なくなってきます。


僕の母性本能をびりびりと刺激する、悲しすぎるKの顔を見ていると、





僕がなんとかしなければ・・・


僕が宮島行こうなんて言うたから・・・・



だから、きょくりょく明るく努めよう・・・・・


これ以上、悲しい気持ちにさせない為に・・・・





強くそう思えてきました。



そうしてフラフラあるいていると、観光案内所の看板が・・。



「ここで、あいてる宿教えてもらおうぜ」



K「そうやな・・・」



寝れるならどこでもいい・・・


せっかく宮島に来てもったいないんですが、妥協するしか方法がありませんでした。

そんな悲しみを押し殺して、観光案内所で係りの人に聞いてみると・・・




係りの人「いやー、たぶん今は、どこもいっぱいですよ・・・。」




二人
「え!?」




耳を疑いました。



二人
「どんな安宿でも、スーパー銭湯でも、なんでもいいんですよ!

 
ビデオ試写室でも!






係りの人「宮島にそんなとこありません・・・」







なにーーーーーー!!






そうです。日本屈指の観光名所宮島にそんな場所などないんです・・・



係りの人「・・・そこにある旅館とか大きいから・・・もしかしたらキャンセルとかでてるかもしれませんよ・・・」



僕らがあまりに不憫に見えたっぽく、係りの人も、あるはずのない希望の光で可弱き2匹の子羊ならぬ、子鹿(宮島だけに)を照らしてくれました。





最後の希望・・・


大きな旅館・・・


小さな希望ですが・・・


そこにかけるしかありません・・・











二人
「すんませーん(滋賀弁のイントネーション)





     角角鹿鹿・・・・(かくかくしかじか・・宮島だけに)









フロント「すいません・・・いっぱいです・・・・・」










やっぱり・・・・


もちろん空いてるわけなどありません。



「わかりました・・・・」



肩を落として、僕が帰ろうと振り向いたとき。

Kが急に、びっくりすることを言いだしました・・・。





「台所でも・・・


ローカでもいいんで!

泊めてください!!!









フロント・僕の心の声「・・・・・いや・・・それは無理やろ・・・」










K
「お願いします!!」







明らかに困りまくった表情のフロントの人は、




フロント「お、お客様・・・・それは・・・ちょっと・・・・」









僕の心の声
「どんだけ自分の本心をさらけだすんや・・・こいつは・・・ある意味すごいな・・・。」







Kの最後のむなしい抵抗も、もちろん受け入れてもらえるわけもなく・・・

二人は、すっかり夕日のしずんでしまった宮島をとぼとぼ歩き始めました・・・。


あまりにKが落ち込んでいるので、僕もどうしていいかわからなくなっているとき、人だかりと明かりが見えました。

ラーメン屋さんです。

どうやら結構有名なラーメン屋さんらしく、結構にぎわっています。



「せっかくやし・・・ラーメンでも食おうや・・・!」


K「・・・・そうやな・・・」



ラーメンを食べるときも終始無言のK。

もう宿は諦め、野宿することは二人の中で、暗黙の了解になっていました。


このラーメンは結構辛くて、二人とも汗だくでラーメンを平らげました。

僕らはおなかが減っていたので、すぐ食べ終わってしまいました。


Kは辛いものを食べると、滝のような汗をかくので、いつもなら「汗かきすぎやー!」と突っ込むんですが、今日のこの空気の中、さすがにそれはさけ、外へ出た僕らはまたとぼとぼ歩きだしました。


そして、鹿がたくさんいる芝生が見えた頃、僕は思い切ってKに切り出しました。




「じゃあ・・・ここらで野宿しよか・・・!」





そういって、ポンッとKの肩をたたくと、



振り向きざま、ものすごい勢いで僕の腕をはらいのけました。



そして、Kは頬に大粒の涙を一滴流しながら、僕に向かって大声で、こう叫んだのです。





「お前が宮島行こうって言ったからやぞぉーーーーーー!!!!」















僕の心の声「・・・・・・・・・・人間ちっちゃ・・・・・・・・・・」








                 












と見せかけて


すっかり気まずい雰囲気の二人はリュックを枕に、宮島で星空を眺めていました。

僕は明日も早いし寝ようかなと思っていると、Kの姿が見えません。


トイレでも行ったのかと思っていると、なにやら話し声がします。


暗闇の中、その声の方へ目をやると、Kとつなぎを着た男の人が三角すわりで、なにやら話をしていました。


Kが話している相手は、どうやらバイクで旅行しているバイカーのようです。



僕の心の声「さっきまであんなに泣きながら怒ってたのに・・・。よーやるわ・・・」




先に寝ようと、少しはなれたところでウトウトしていると・・・



ぽんぽん・・・・



だれかが僕の体をたたいています。



「なんやねん・・・」



うっすら目を開けると、またまた泣きそうな顔で僕を起こすKがいます。




K(小声)「直也・・・ここで寝るのはヤバイ・・・ヤバイぞ・・・!」



「?????ナニ?」



K(小声)「やばいねん・・・」



「だからナニが??」



K(小声)「ええから!ちょっと場所変えよ・・・」



「おまえさっきまで、あの人と・・・」



「シッーーー!!!!」



人差し指を口の前にあて、僕を黙らした後、半ば強引に僕の腕をつかまえて、まだ光のある観光案内所のほうにひっぱっていこうとするのです




「なんやねん!!

  てか、お前あのバイカーの人に挨拶せんでええんか??」





「・・・・・・・・・・」





Kは少しためらったあと・・・バイカーに向かって




「じゃぁ、僕ら宿に帰るんでー!

  ありがとうございましたー。

  いい旅を!」





バイカー
「はーい。ほんじゃーねー」






んんんん!!!???


宿・・・!!!???


なんや!?


そんなもんないやろっ!!!???





わけもわからずKに腕をひっぱられ続けました。

そして、少し歩いてバイカーの姿が見えなくなった途端・・・




「直也!はしれ!!!!!」





!!!????は???





Kは急に走り出したのです。


わけもわからず、あとを追いかけて事情を聞いてみると・・・・



「俺、あの人と旅の話してたら急に・・・顔近づけてきて、

・・・・(おれー・・・・女の子もすきやけど・・・・・・男もいけるんや・・・・)

っていうたんや!!!


あいつホモや!!!!!!」







そうです!


さみしさのあまり
トモダチをつくろうと話しかけた男は、

実は
おホモダチだったんです!



おホモダチと絡んでない僕は、腹を抱えて笑いましたが、おホモダチのイケニエになりかけたKは、かなり真顔・・・


派出所を見つけたKは




「あそこに泊めてもらおう!」







「だから・・・無理やろ・・・」




僕の話も聞かず、問答無用で派出所に入り込み、おまわりさんに向かって、



「すんませーん。

 地べたでも、台所でもどこでもいいんでとめてください!」



僕の心の声「でたっ!またや!・・・こいつほんまにすごいなぁ・・・」



警官「それはちょっと・・・」


もちろん断られました。

しかし、おホモダチの恐怖がぬぐえないKは、がんとして、派出所の前を動こうとしません。


が、結局、どうにもならないのでKは泣く泣くあきらめました。


ただビビりまくっているKは、派出所の目の前にある博物館みたいな建物の階段で、寝ると言い張ります。



僕らは、この固い階段で、二段ベットみたいに並んで、横になりました。


Kは星空を見ながら、



「俺・・・好きな人がおんねん・・・・」




と、おホモダチの悪夢をひっしで忘れようと、ちょっと涙ぐみながら恋バナを強引にはじめだしたのを、今でも覚えています・・・・・・。






          終








と見せかけて、



翌朝








「ぎゃーーーーーーーーーーーーー!!」







「!!!!!?????????



  
もしや、Kがおホモダチに襲われたんか?!!!



  交番の目の前で!!??



  そんなばかな?!」












ぱっと起き上がった僕は、いそいでKの方を振り返ると、僕より階段の下に寝ていたので、
たくさんの鹿にかこまれてハムハムされてました。










         ほんとの
           終