天湖(ナムツォ)

ポタラには、大きな感動をもらい、デプン寺では、熱心にお祈りをされている信者の方々を目の当たりにしました。
なので、今度は、実際に修行している風景が見たくなり、次の日、
投げかけ問答を繰り返し、修行している小坊主さんが沢山いるというセラ寺に行きました。

僕の期待は高まりました。一体、チベット人の厚い厚い信仰を受ける為に、どのような修行をしているのか。
いわば、僕の最終目標、この旅の
ファイナルディスティネーションと言っても過言ではありません。
きっと、人生の深い深い意味について、問題を投げかけ、そして、考え、受け答えしているんでしょう・・・。

セラ寺は、塀に囲まれていました。中から、なにやら声が聞こえてきます。チベット語なので、何を言っているのか、想像だにできませんが、期待通り問答が繰り広げられているのでしょう。

中に足を踏み入れた時、僕は、ものすごい衝撃を受けました。

修行中の小坊主達は、たっくさん(何百人も)いるのですが、みんな木陰で、、かなりリラックスした体勢で、涼んでくつろいじゃっているのです。

いろいろを声を出していますが、
100%雑談です・・・。みんなにこにこと笑ってとっても楽しそうです。

とてもじゃなく人生について考えている様な面がまえでは、ございません。むしろ、アフターファイブについて喋っている感があります。

そんな、状況ですが、カメラを出して、外人のおっちゃんが、雑談に花が咲いている一組の小坊主に、写真を撮らせて欲しいと頼みに行きました。

すると、小坊主は、ムクっと立ち上がり、笑顔でオッケーサインを出しました。
おっちゃんが、カメラを彼らに、向けると、


小坊主の顔は、一転、キリっと引き締まり、隣にいる小坊主に、でっかい声で何かを叫び始め、最後に、強く拍手(かしわで)を打ちました。


これは、まぎれもなく、問答です。

ここに来てでました・・。撮影用の空問答・・・。





僕のがっかりという気持ちは、やがて、やっぱりという気持ちに変わっていきました。
この話を宿の日本人に話してみると、

「僕は、えらいお坊さんの就任式みたいなのに行ったんだけど、、参列しているお坊さんの携帯電話が鳴っておしゃべりを始めちゃってたよ・・。」

ポタラには感動したものの、チベット仏教に期待したものは、大きく外れてしまい、僕はもうここにいる理由が無くなってしまいました。

そんな時、一人の日本人のお兄ちゃんに声を掛けられました。

「今から、ランクル(トヨタのジープ)をチャーターして、ナムツォという湖に行くので、一緒にシェアしない?」

というお誘いです。
僕は、喜んで参加させてもらうことにしました。

僕が、最後の一人だったらしく他の4人はもうすでに決まっていました。

メンバー紹介。

1.大学で中国語を専攻している、このお兄ちゃん   通称 M君

2.中国に留学していて、
中国語ペラペラ英語も話せる日本人女性、
  このラサに成都から、闇トラックに隠れてやってきたというツワモノ  通称 へんちゃん

3.
チベット語を勉強中の日本人女性、  通称  Yさん

4.なぜか、
英語を話せる中国人のおばちゃん。 

5、最後に、
関西弁を、とても流暢に話せる僕さえいれば、焼け石に・・・、いや、鬼に金棒です。                 通称  極東のシャベラー

とっても、頼もしいパーティです。
このお兄ちゃんが、近くの安宿を回って、声を掛けたり、宿に張り紙させてもらって集めたのだといいます。

出発の前日、ランクルの持ち主の旅行会社と契約がありました。今回のパーティ全員が、初めて揃う日でもあります。

向かいから、中国人らしき女性がやってきたので、お兄ちゃんに、


「この人が中国人の方ですか?」

って聞くと、
中国人の方が、口を開き、

「中国人じゃないよ〜。」

「うわぁ!!すいませんっ!!」

中国を旅行してると、
誰が日本人だか中国人だか、判らなくってきます・・・。

契約書は、中国語だったので、へんちゃんに確認してもらい無事契約完了しました。ツアーの内容は、ナムツォのテントに1泊2日、夕食、運転手付き。


出発の次の日、僕は、M君と二人で、他の三人を待っていました。

「Mくんは、大学どこなん〜?」

「僕は、関西の三流大学だよ。」

「それって・・・

「えっ!?、京産大だけど。」

悪気は無ッシング
ですが間接的に僕もバカにしてくれました。

Mくんは、どこからか、スポーツ選手が使う様な酸素ボンベを購入していました。

なぜかというと、ラサの高度は、
3,700mと富士山とほぼ同じなのですが、ナムツォは、4,700mさらに上がります。

そこで、心配なのが、
高山病です。気圧の変化と、酸素濃度の薄さによる、頭痛、吐き気などが主な症状の恐ろしい病気です。

ラサでさえも、高山病にかかり、病院に通い、やむなく下山するという人たちが結構いるくらいなので、決して遠い存在ではありません。
高山病に、なるか、ならないかは、それこそ、運次第って感じです。


かなり、不安が募り始めてきました。



メンバーが揃ったところで、 出発。
初めは、運転手なんて雇わなくて、自分達で運転した方が、安くて楽しいんじゃないか、なんて思っていました。

しかし、いざ出発してみると、恐ろしいくらいの
道なき道を走りつづけます。


橋の無い小川を、ランクルが半分浸かりながらも、越え、

360度、見渡す限り平野。そこは、一面の水溜りのような、道もワダチも無い、そんな中を水しぶきを上げながら、ひた走り、

でっかい岩が露出している山道を、ドコンッドコン揺られながら。

そんな悪路を、地図も見ずに走る、運ちゃんには、脱帽です。そして、この世界のTOYOTAにも、敬礼です。

それにしても、この車窓から見える風景の凄い事。名所でもなく、もしかしたら、名前さえついていないかもしれない、そんな山や、峰ですが、一つ一つが、僕らにとめどない感動を与えてくれます。


しばらく、走っていると
遊牧民の人たちと出愛いました。





「タシ〜デレ〜!!!(こんにちわ)」

僕は、この言葉しか知らなかったんですが、チベット語を勉強しているYさんのおかげで、なんとか気持ちを伝える事が出来、とても楽しい交流する事が出来ました。


その後、しばらくして走って、再び、休憩を取る事にしました。



僕は、空も近く、青い、この大自然の中に抱かれる写真が取りたくなってきました。
しかし、僕は、基本的には、
自分が写らない写真は取りません。
景色だけ撮ると、後からその写真を見てもあんまし面白くないからです。

大自然に抱かれる様。それは、だだっ広い風景の中に、ポツンとちっちゃく写る自分

我ながら、
自分を誉めてあげたいくらい、ベリーナイスな構図です。

しかし、あくまで軽い休憩なので、そんなに時間がありません。

皆を待たせない為にも、カメラをへんちゃんに頼んで、僕は、走りました。











パチリッ!!



撮ってもらった事を確認して、
ダッシュで帰ってきました。


その直後、僕は、


今まで、幸運にも高山病にかからずにいられたのですが、
こんな高地で
全速ダッシュ1往復もしてしまったので、酸素不足で、軽い高山病にかかってしまったらしく

「うぇ〜、気持ち悪いよ〜、あ〜、頭痛いよ〜。」


車内で
死んだ魚のようにぐてぇ〜っとしていました・・・。



そして、
走る事5時間。やっと着きました。

天湖と書いて、ナムツォ。

そこには、一軒の宿(テント)が、あるだけで、他には何にもありません。電気どころか、トイレすらもないのです。

あるのは、パノラマで広がる、雪をかぶった山の峰と大きな湖の絶景です。


正直、僕の目的であった、チベット仏教は、空振りでした。

でも、
ちょっとばかしの勇気を出せたからこそ、こんなに沢山の出愛に巡り逢えて、色んな人の助けてもらってこんな遠く日本から離れた夢のような別世界まで来れた


そんな僕は、自分と西遊記
の三蔵法師を重ねあわせていました。


「ご存知の通り、お釈迦さまの指示で、三蔵法師が、仏典を求めて旅たった話。

その道中、三蔵は、猿の悟空、カッパの沙悟浄、ブタの猪八海、馬の藤村俊二達と、紆余曲折を経て、天竺へ辿り着くことができた。

辿り着いた先には、仏典は、一つも無なかった。


しかし、振り返ってみると、三蔵は、どんな仏典の中にも載ってないであろう貴重な教えをこの旅の中で、自ら、見いだし、体得した。
長い、長い道のりの中で、数々の苦難を乗り越えたからこそ、得られるのものが、必ず、そこにあり、お釈迦さまは、それを知っていた。」




だから、僕は、チベットに来た事を
全く後悔していませんでした。




そんな折、テントの方から僕らを確認した、
ちっちゃい子どもたち、5,6人が、僕たちの方へと、キャー、キャー、言いながら嬉しそうに走って来てくれました。

きっと、電気もテレビもラジオも無い、退屈な毎日なので、こんな外国人と遊ぶのが数少ない、楽しみなのかもしれません。

こども達は、どんどん走り寄ってきます。みんな色んな服を着ています。
遊牧民の格好をしている子や、ピンクのトレーナーを着ている子。

みんな、ちっこくてとっても、無邪気な笑顔で、やってきます。


目の前にやってきた、その子のトレーナーを見ると、



でっかい字で、









ちびまる子ちゃん






って、
プリントされてます・・・。

でっかいまるちゃんの顔と一緒に・・・。



そんな光景を見た、僕らの
後頭部には、大きな汗目の上には、縦に4本線が入っていて、

どこからか、
キートン山田の、


「ナムツォって・・・、いっ・・ったい・・・。」




というナレーションが聞こえてきました・・・。