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インドの洗礼
ポカラから、バスでインドの国境へと向かいました。
通常であれば、ツーリストバスと言うものが、ポカラ〜バラナシ間を運行しているのですが、この時期は、ツーリストが少なかったので、運行してなくてネパール人や、インド人と一緒のローカルバスに乗る事になってしまいました。
別にそれはいいのですが、ただ困るのは直行ではないので、時間もかかるし、バスもあまりキレイではないのです。
ちなみに、ポカラから国境の町スノウリまで7時間も掛かりました。
国境の町、スノウリに着きました。
ここに一泊して、翌朝、国境へと向かいました。
インドビザ付きのパスポートを見せて、国境審査官に色々と質問を受けて、通過します。
ここが僕にとって初めてのインドで、初めて接するインド人です。だんだん緊張してきました。
そういえば、ネパールにいた時、仲良くなったネパール人達に、僕がこの後、インドに行くという事を言ったら、全員が口を揃えて、
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
とアドバイスをくれていました。
さくらももこさんのインド旅行記では、税関の人間でさえ信用できない。
と書かれていました。
記念すべき第一戦です。
が、しかし、肩透かしを食らった様に、国境審査官のおっちゃんは、とってもスマイリーなのです。
この笑顔は、はっきり言って親切なネパール人と同じ感じです。国境なので、もしかしたらネパール人色が強いのかもしれません。
「まずは、この入国カードを書いて。」
と、言われたので、僕は、カバンからペンを取り出して書き始めました。
「日本人かい?」
「どこ行くの?」
僕が書いている時に、いろいろと話しかけてくれます。
やっぱりこのおっちゃんは、いい感じです。
「出来たよ。」
そう言って、カードを渡すと、記入漏れがあるみたいで、親切に、
僕のペンを手に取り、色々書き足してくれてます。
書きながらも、おっちゃんは、また僕に色々と話しかけてくれます。
もしかしたら、インド伝説ってのは、ただの伝説でいい人もいるんではないか。
人の話だけでなく実際に来て、自分の目で見て、自分の耳で聞いて、本当に良かったと思いました。
書き終えた、おっちゃんは、やっぱり笑顔で、
「じゃぁ、気をつけてね!!」
と言って僕を送ってくれました。
おっちゃんに別れを告げた僕は、ヒンドゥ教の聖地バラナシへと向かうバスに乗り場へと向かいました。
本来なら、ツーリストバスで、すっと行けるところなのですが、ローカルバスを待たなくてはいけません。
ローカルバスは、なかなか来る気配がありません。
ボーっと待っていたのですが、やってきたバスを見ると、ボー然としました。
超レトロ・・・・
かつ・・・
超ロフト調・・・。
ちゃんと走るのか、かなり不安でしたが、バスはものすごいギアの音を撒き散らしながらブンブンと走り出しました。
一応、走ってくれているので、とりあえずは、一安心でした。
一息ついて、ホッとしていると、突然ハッとしました。
僕はある事に気が付いたのです。
国境のおっちゃんにペンを返してもらってないっ!!
あのペンは、親父が働いていた会社からもらった勤続何年かの記念のペンで、僕にとって、大事な物だったのです。
まさか、あのおっちゃんのスマイルは僕を油断させる為の、営業用の仮面だったのでしょうか・・・。
やられたっ!
そして、悔しい・・・!
日本代表のユニフォームまで着て、心身共に準備万全で挑んだ第一戦だったのに・・・。
沢山の親切なネパールの人たちにも、
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
「インド人には、気を付けろ!」
と、耳にタコが出来るくらい注意されていたのに・・・。
僕は、甘かった。
インド伝説は、決してガセではなかったのです。
これは、もう一度、気を引き締めて行かなくては、いつかやられる・・・・。
僕は、唇を噛むほど、強く反省し、来たるべく第二戦に向けて闘志がメラメラと燃えて来ました。
そんな中、アクシデントが起こりました。
バスが急に路肩に停まったのです。きっと故障か、パンクでしょう。バスが超レトロだったり、道の悪いアジアでは、良くある事です。
感心するのは運ちゃんです。アジアの運ちゃんは、ドライバーでありながらも兼整備士でもあり、どこで学んだのか判りませんが、どんな故障もお茶の子さいさいで直します。
ただ、いつになったら直るのかは、全く判らないので2,3時間掛かることもよくあるのですが・・・。
運ちゃんは、みんなを降ろして、早速修理しだしました。
1時間以上経っています。
あたり一面何も無い場所なので、僕は退屈でしかたありません。
なので、超レトロかつ、超ロフト調バスの写真を一枚撮ってみました。

バスというより、走る廃屋と言ったほうが適切な表現かもしれません・・・。
すると、運ちゃんは、修理の手を止め、こっちにやって来て、みんなに言いました。
「無理!違うバスに乗り換えて。」
今回はさすがの運ちゃんも脱帽の様でした。
ただ、この目の前の道にバラナシ行きのバスがいつ通るのか・・・?
全員乗れるのか・・・?
そもそも僕等が乗ってきたこのバスは満員だったのです。
単純に考えて、満員の乗客が全員バスを乗り換えるには、次のバスは乗客ゼロでなくてはいけないのでは?
そんな都合のよい鴨ネギバスが、走ってくるものなのでしょうか・・・。
運ちゃんは、幾つかのバスを停めて交渉していますが、行き先が違うのか、また、乗車拒否なのか、バス会社が違うのか、知るよしもありませんが断られていました。
僕の不安は、どんどん募ってきます。
しばらく待っていると、運ちゃんが一台のバスを止めました。
そして、
「これに乗れ!」
とみんなに指示を出したのです。
運ちゃんは、バスがあるので残るようです。
って、来たバスを見ると、かなり満員です・・・。
その瞬間、みんなの脳裏に同じ不安がよぎりました。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
乗れないかもしれない・・・。
みんなは、バスに向かっていちもくさんに走り出しました。ギュウギュウ詰めって言う言葉さえ、甘っちょろく聞こえます。
ただ、僕は、男の子なので、我慢しなければなりません。
まずは、女性とチビッ子たちが先です。
すると、僕や数人の男達が乗る前に既に、超満員のバスが完成してしまいました。
それでも、運ちゃんは
「乗れ」
と言うのです。
「無理っ!?」
と思っていたら、僕等を強引にバスに詰め込んでくれました。
おそらく、バラナシ行きのバスは頻繁に出ていないのかもしれません。
もともと、バラナシ着が夜だったので、次の便を待っていると、これ以上遅くなり、危険なのかもしれません。
詰め込んでくれたおかげでなんとか入り込む事が出来ました。
ただ、詰め込まれたのはいいんですが・・・。
このバスはドアがありません・・・。
後から、無理矢理、詰め込まれたので、僕ら男達は、ドア際ギリギリにいます。
普通の満員電車とか、満員バスって、ギュウギュウに詰められたら、ドアに、押しつぶされるように、もたれ掛かるものなのですが、そのドアがありません。
どこかにしっかり、捕まっていないと、中の人たちもギュウギュウ詰めなので、外に吹っ飛ばされてしまいます。
このドア際で、切羽詰った押しくらまんじゅうが繰り広げられています。
そして、このバスは、バスとは思えないスピードで爆走しています。
押っしっくっら♪まんじゅ〜ぅ♪押っさっれっって♪死ぬなぁ〜♪
国境のおっちゃんに続き、迎えたインド第二戦は、大仁多厚の金網爆破デスマッチよりも恐ろしい、バトルロワイアル押しくら饅頭。
落ちたら・・・絶対、死ぬ・・・。
僕は、力の限り、横にあった棒を握り締めていました。
こんなんだったら明日になっても次のバスに乗るべきだった・・・。
と、後悔しながらも、次なる不安がよぎります。
一体、いつまでこんな状態が続くのでしょうか・・・?
あんまり力いっぱい握っていると、いつか、握力が無くなってしまうかもしれない・・・。
ただ、僕には、この状況下、力を温存しておく余裕なんて、出来ないし・・・。
そんな死と隣りあわせで、一時間程経った時、
バスが、何も無い、普通の道端に停まったのです。
そして、何人かが降りて行ってくれました。
きっと、バス停だったのでしょう・・・。
バトルロワイアル押しくら饅頭は、試合終了となり、死者を一人も出すこともなく幕を閉じました。
バスの中もすいてきて、やっと落ちついたと思ったら。
夕刻・・・。
この爆走バスは、日が落ち、暗くなって外灯一つ無い、狭いあぜ道を、その後もガンガンすっ飛ばし、スキがあると、前の車を抜かし、対向車にぶつかりそうになる事、十数回・・・。
路肩を走るチゃリンコや、歩く人をはねそうになる事、数十回・・・。
試合は、まだまだ、終わっていないことを強く思い知らされました・・・。
なにより、僕は、まだインドに来たばかり・・・・。
身も心も、くたくたに疲れ果てた夜遅く、この暴走バスは、何事もなく、バラナシへと到着してくれました。
時計を見ると、スノウリを出てから、12時間が経っていました・・・・。

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