エルパソ エルパソという町は、メキシコとの国境にある町です。 メキシコまでたった25セントを払うだけで、渡ることが出来ます。元々エルパソもメキシコの領土だったので、陽気でラテンのノリを持った人ばかりです。 僕らは、ニューオーリンズからエルパソのユースの予約をしていました。 かうにも出来るだけ多くの英会話の場を提供してあげたいと思っていた僕は、ユースに入ってからの次のやりとりを教えてあげ、受け付けを任せる事にしました。 「アイ ハブ ア リザベーション。 マイネーム イズ かう」 (私は、予約をしています。 私の名前は、かうです。) そして、僕らはユースに着き、そのドアを開けると、ヒゲ面の見るからにメキシカンなおじさんが笑顔で、僕たちに向かって、 「ハーイ! ハウ アー ユー?」 (やぁ!元気かい?) と、いきなりラテンのノリ全開で僕たちを迎え入れてくれました。 にも関わらず、かうは、かっちりと教え通りにマニュアルを遂行してしまいました。 彼のあいさつを完全に無視して、 「アイ ハブ ア リザベーション.マイネーム イズ かう!」 (私は、予約しています。私の名前は、かうです!) 言ってしまいました・・・。 日米和親条約の申し出を,完全に拒否されたおじさんは、戸惑いを隠せず。 「O,OK・・・」 と、そそくさ宿泊名簿を取り出して受け付けを済まし、出会いがしらから、かなりヘビーな空気が僕ら二人に、のしかかりました。 しかし、その後なぜかおじさんは僕らに特に親切で、休憩室にあるビリヤードをかうと楽しんでいると、おじさんがやってきて、親切に指導してくれました。 また、ユースのみんなには、内緒で部屋に呼んでくれました。 六分の一に切ったライムをカジリ、次に左手の親指と人指し指の間に乗せている塩を舐めながら飲む、コーラで割ったテキーラをご馳走してくれました。 バーテンのバイトをしていたかういわく、「メキシコーク」というらしいです。 ソファに座ると、隣で日本語を独学で勉強しているというアメリカ人が、手には、なにやらスラング(流行・下品な言葉)辞典を持ち、うれしそうに僕に話し掛けてきました。 「JORO・・・ JORO・・・」 始めは、なんの事か全く理解する事が出来なかったのですが、彼がとてもいやらしい顔つきだったので、分かりました。 女郎です・・・。 つまり、売春婦。 残念ながらこの言葉は、流行言葉というよりも江戸時代の言葉でした・・・。そして、その他にもこのスラング辞典にはへんてこな日本語で満載でした。 夕食を食べに行くとめちゃくちゃ安いです。 僕は、500gのステーキを、かうは、チキンの半尾を5ドルくらいで注文しました。 日本で大きくても300g弱しか見たことがありません。どのように出てくるのか興味津々丸でしたが、運ばれて来たお皿を見ると、 なんと、ステーキが半分に折りたたまれています・・・。 それでも、4分の1くらいはみ出ていました・・・。 次の日、国境を渡りメキシコに行きました。メキシコは、銀の名産地なので、僕らは、銀の指輪を買う事に決めていました。 ここでは、メキシコークに続きかうに再び、アドバイスをもらうことになりました。 銀の指輪の内側に925という数字が打ち込まれていれば、本物の銀で作られているというのです。なんでも、製造途中に必ず打ち込まれるのだとかで・・・。 では、なぜ、かうがこの様な専門的な事を知っているかというと、 高校の時に、久仁郷(くにごう)君という名前の友達が、 「俺は、本物だ!!」 と訳のわからないことを言っていたから・・・。 だそうです・・・。 (良く解かる解説) ( 久仁郷くん = くにごうくん = 925くん = 本物・・・?) その夜ユースに帰ると二人の日本人に話掛けられました。 一人は、ちょっと好青年風の慶応ボーイのお兄さん、もうひとりは、ヒゲ面の同い年ヒロくんで、二人もたった今、知り合ったとの事でした。 その後、久し振りの日本人とのおしゃべりとなったのですが、ここから慶応ボーイのお兄さんの怒涛の武勇伝総集編が始まってしまいました。 「僕はねぇ、人殺し以外の悪い事はだいたいしたねぇ。」 「僕は、高校の遠足の時に、オールドパー(高級ウイスキー)を、2本水筒に隠してバスの中で飲んだねぇ。」 「金がなくなると、パー券(パーティ券)売りさばいてたねぇ。」 この後も聞きたくもないのに、延々と続き・・・。 最後に・・・ 「実は、今日、国境付近でマリファナの売人と交渉してて21時にメキシコからマリファナを持ってくるって言うんで、金を渡してあるんだよねぇ。」 しばしの沈黙・・・。 「あっ!?良かったら一緒に買い物(マリファナ)に付いて来てくれない?」 と、悪魔の誘いを受けてしまいました。 今、考えると、この人について行くという事はスーパーハイリスク・ノーリターンなのですが、この時僕は無性にその売人とのやりとりが見てみたくなり、かうにも尋ねると 「いいよ。行こう!行こう!」 と、あんがい乗り気だったのでヒロを残して三人で真っ暗闇の中メキシコとの国境まで歩きました。 そして、約束の21時になりました。 しかし、誰も来る気配がありません!! どうやら慶応ボーイは、騙されて金だけ取られてしまった様です。 それでも、信じられない彼は後少しだけ待とうと言い、なかなか騙されたという現実を直視出来ないみたいでした。 そんな重苦しい空気を無視するかの様に、かうが明るく僕に声を掛けてきました。 「なぁなぁ、売店ってどこにあんの? m&m’s買おうと思っててんけど。」 なんという事でしょう・・・。 純粋なかうのデータベースには、 「買い物=おやつ」 としかインプットされていなかったようで、こんな国境の暗闇のなかに、一人で必死にm&m’sを置いていそうな売店を探していたのでしょう・・・。 僕は、こんなケガレを知らないエンジェルをとても危険な火遊びに誘った事を深く反省し、m&m’sを駅の売店に買いに行く事にしました・・・。 ロスアンゼルス いつも通り予約していたチャイニーズシアターの向かいのユースへと向かいました。 その部屋では、28歳で日本大学ゴルフ部を経て、アメリカでプロゴルファーの試験を受けているという日本人のお兄さんと一緒でした。 日大ゴルフ部といえば、丸山茂樹を筆頭に有名なプロゴルファーを沢山輩出しています。 子どもの頃からゴルフの英才教育を受けてきている強豪達の中でもお兄さんは、決してひけを取らなかったそうで、 自分で自分の事を、 「僕は、ゴルフを大学から始めたけど、最後は宴会部長にまでのし上がったよ!」 と180°ベクトルがずれていましたが、百歩譲って驚いてあげました・・。 そして、お兄さんは2週間くらいこのユースにいるみたいなので、周辺にはとても詳しく、とても親切に色々な所を案内してもらいました。 このユースに友達もいるみたいで、韓国人のマリーン、ドイツ人のレベッカ、アメリカと日本のハーフのサンディという女の子です。 そして、今日の夕方サンディが日本に帰るのでみんなで一緒に夕食を食べようと僕たちを誘ってくれました。当のサンディは、タトゥー(オシャレな刺青)を入れに出かけたまま帰って来こないので、談話ルームに行って待つことにしました。 すると、なんと!? そこには、大学の同級生の山田くんがソファーに座っていました。 彼には、大学の講義中にアメリカに行こうと思ってると色々と相談を受けていましたが、お互いに全くスケジュールを決めていなかったのでまさか、会うとは思っていませんでした。 と、言う訳で、四人でサンディの遅い帰りを待つことにしました。 が、なかなか帰ってきません。僕の正確無比な腹時計が夕食時を告げています。 もう、これ以上の空腹に耐えられなく、仕方がないので、サンディには申し訳無いのですが、四人でご飯を食べに行く事にし、外へでました。 すると、向かいからサンディがピザをほお張りながら帰ってきます・・・。 「・・・・・・・・。」 なんだったのでしょうか?今までの空腹との葛藤は・・・。 さすがにお兄さんも怒っていましたが 「今日、サンディはお金が無いみたいだから、帰りは地下鉄でアムトラックの駅まで行くから一緒に送るのをついてきてくれない?」 と言われました。 確かに女の子一人でこのロサンゼルスの地下鉄はさすがに危なく、一度約束を破られたからと言う理由だけでほうっておけないので、千歩譲って了解しました。 僕らは軽く夕食を食べに、サンディは、荷造りをする為にユースに戻り30分後に、ロビーで待ち合わせるとにしました。 その後、僕たちは30分後にロビーに戻ったのですが、サンディはどうやらまだ来ていないようでした。今度遅れるという事は、自分が電車に乗り遅れてしまうのに・・・。 その後サンディは、大幅に遅刻してきました。 そして、まだ迷惑以外なにも共有していないサンディの荷物なんか持ちたくなかったのですが、男四人と女一人で、女のみが大きな荷物を両手に持つというのは、少し抵抗がありました。 ここは、レディファーストの国あめーりか、郷に入れば、郷に従え!! 一万歩譲って持ってあげる事にしました・・・。 大幅に遅れていて時間が無いので、その荷物を持ってのダッシュがあったということは、いうまでもありません。 そして、アムトラックの駅に着くと、別れの時の寂しさを一片も感じる事なく、「ただただ迷惑だったなぁ。」と思いながらも彼女に手を振り別れを告げました。 それからの帰り道に四人で歩いていると、 パトロール中のパトカーが僕ら四人の隣に横付けしてきました。 「おいっ!!何をしているんだ?」 と、パトカーの中のお巡りさんに尋問され、 僕らは、びびりながらも、これこれあれそれと理由を告げると 「全くこんな時間に、こんな場所で一体何をしているんだ!!??」 と、この辺りの治安は、相当悪いにも関わらず、夜中に僕らは平然と歩いていたので、お巡りさんを呆れさせてしまったのでした。 そして、お巡りさんは、パトカーで走り去っていったかと思うと、今さっき通り過ぎていったバスを止めています。何をしているのかとその様子をじっとみていると、パトカーは再びこちらへ舞い戻って来て、 「あのバスに乗りなさい!」 と言うのです。 さらに、お巡りさんは親切にパトカーで僕ら四人をバスまで誘導してくれ、 大型バスの運ちゃんも通常の定期便にも関わらず、 なんと!? 僕たちの為だけにわざわざ進路を変更してくれて、ユースの前で降ろしてくれたのです。 そして、サンディを非常事態にはおそらく役に立たないであろうこの四人でしたが、一緒に送っていって大正解だったという事を実感しました。 この親切なお巡りさんや、バスの運ちゃんに心からの感謝の念や、満足感が、僕らの胸に体の奥から込み上げてきて、鼻息荒いスーパーハイテンション状態でした。 そして、その興奮も覚めやらぬままユースに戻ると、 そこに、 なっ、なぜか!!?? 帰国したはずのサンディの姿が・・・!! 「アムトラックに乗り遅れたし、タクシーで帰ってきたぁ♪」 僕 「・・・・・・・・。」 かう 「・・・・・・・。」 お兄さん 「・・・・・。」 山田くん 「・・・。」 この長い長〜い沈黙を破ろうとするものは、誰一人としてなく、 この間に恐ろしいほどの脱力感が、僕ら四人をに襲ってきました。 あしたのジョーの死んでしまった力石徹の如く、白い灰と化してしまっていたので 「その帰りのタクシー代を、 駅に行くタクシー代に使えよっ!」 と、いう言葉を発する余力さえも残ってはいませんでした。 本当だったら、僕の名誉であり、武勇伝になるはずの ロサンゼルスボディーガード事件は、 残念な事に年度末の道路工事並みの無意味さを持つはめになってしまってしまいました・・・。 ラスト サムライ お兄さんは、僕らを本当の弟の様に可愛がってくれました。だから、僕らは、このお兄さんの事を「兄さん、兄さん」と敬意を込めて呼ばせてもらっていました。 この兄さんは、このユースにいるドイツ人のレベッカにお熱を上げていました。しかし、ヨーロッパ人には、珍しく英語がうまく話せないので、行き違いがあり、ケンカをしたというのです。 その事は、僕らが始めて兄さんにあった5分後に、いきなりその相談されました。 そのケンカまでの経緯が赤裸々に書かれている兄さんの日記を読んでくれと言われたのですが、字が細かくて量が膨大なのでこれは、面倒くさいと思い、僕は、話しを軽くすりかえて、ケンカというもののくだらなさについて語ろうとすると、兄さんは、 「まずは、日記を読んで!!」 と、僕の話は、さえぎられ、 僕らは、5分前に出会った他人のケンカという それは、それは、ミクロの興味の欠けらも湧かないジャンルの強制読書をされられる事になりました。 そして、すすんで日記を自ら他人に勧める人も初めて出会いました・・・ これには、かなりの体力を消耗しましたが、ケンカの原因もユニバーサルスタジオに行って、食事場所をどこにするか、どうのこうの、という超しょうもない理由でした・・・。 しかし、読んでしまった以上仕方が無いので、レベッカに直接話をしに行きましたが、向こうもこっちも英語が不自由なので、ちんぷんかんぷんな話し合いで終わってしまいました。 その後、相当面倒くさくなってきた僕は、労力を使うのが嫌になったので、この二人には、これ以上、関わらない事にし、直接兄さんに仲直りに行ってもらう事にしました。 それ以降は、何だか気まずいままでも、どうやら仲直り出来たみたいで、 それ以来、僕らは全く自覚が無いのですが、二人の架け橋になったという事で、兄さんに感謝され続けています。 この夜は、宿泊者の中に数名誕生日の人がいたらしく談話ルームでお誕生日パーティが開かれました。 そこで、知り合った一人の京都人のお姉さんと僕と、かうと、兄さんと四人で、楽しくお酒を飲んでいました。 パーティは、飲み物は、持ち込みですが、ささやかなケーキがあったり、また、くす玉があったりと、楽しいムードが満載でした。 お酒を飲んでいると自称宴会部長の兄さんのエンジンが段々と温まり、始めました。 そして、兄さんはなぜ、こんなアメリカという遠く離れた場所でプロゴルファーを目指しているのかを熱く熱く、僕達に語ってくれました。 その話は、日本大学時代にさかのぼります。兄さんは、ゴルファーの職業病とも言える腰痛を患って入院しました。 もうゴルフをするのが絶望的であったといいます。 しかし、当時、付き合っていた彼女が献身的にお見舞いに来て介抱してくれた時、2人は、沢山話をしたそうです。 このアメリカで結婚式を挙げて、新婚旅行は、アメリカのディズニーランドに行こうと誓い合ったり・・・。 その後、兄さんが退院して、日常生活を送っていたのですが、彼女は、なんと病気で亡くなられてしまったのです。 そこで、兄さんは、その彼女の為にもこのアメリカの大地でもう一度、今度は、一人ですがゴルフを一からやり直そうと決めたそうです。 僕は、この話しに胸が締め付けられる様な熱く、熱く込み上げてくるものを感じました。 でも、・・・・。 よくよく考えてみると・・・、 ほな、レベッカって、何なんすか・・・?? と、思ったのですが、兄さんの熱いトークの前で、その事を言い出すことは、ミッション・インポッシブルでした・・・。 その後、兄さんのお酒は、どんどん進んでいきました。さすが、自称宴会部長だけはあります。 テキーラのストーレートをなみなみとグラスに注ぐと、兄さんはみんなの前でグーッと一気飲みをしてみせました。当然、僕のテンションも上がって来て、 「兄さん、外国人達にサムライ見せてやって下さいよー!!」 と、けしかけ、さらに数回テキーラを注ぐと、兄さんはグーッと一気に全て平らげてしまいました。もう兄さんのテンションは、最高潮です。そして、周りの外国人達からも 「サムライ」 と呼ばれ始めることになったのです・・・。 そして、その声援に応えようと、サムライ(兄さん)はいきなり、天井からぶら下がっている、せっかくのくす玉をキックで割ると言い始めました。 しかし、僕(身長180cm)が、手を上げて届くくらいの高さです。身長160cm代であろうリトルサムライが、絶対にキックなんかで割れっこありません。 すると、サムライは、僕らが座っていたソファに上がったと思った、 その次の瞬間っ!! 宙を舞いましたっ。 そして、右、左足を大きく蹴り上げる2脚蹴りを放ったのです。 しかし、というか、予想通り、 そのキックは、虚しく空を切り、滞空時間も足の長さも、極めて短かい2脚蹴りは失敗に終わり、左足も右足も高く振り上げているので、硬いフロアにおもいっきり腰から 「ドーンンッ!!」 と打ちつけられてしましました。 僕は、あまりのコミカルさに腹を抱えて笑い転げてしまっていたのですが、ふと脳裏をよぎったのは、兄さんは腰痛で一度ゴルフを辞めているという事です。 慌てて、起き上がり兄さんに駆け寄ったのですが、どうやら無事だったようです。 僕は、もうこれ以上危険な事は、このサムライにさせてはいけない思い、自粛する事にしました。 なので、 「兄さん、このミカンを一気食いしてみんなにサムライを見せてやってくださいよーー!」 と、誰でも一口で食べれる大きさのちっちゃいミカンをサムライに渡して軽くボケてみたのですが、 サムライは、「よし来た!」と、一回で口に入れてみせ、隣にいたアメリカ人の顔前30センチまで近寄り、恥かしさの欠片も無く、「もぐもぐ」と、たいそう自慢げに食べてしまっています。 そのリアクションに困っているアメリカ人と、恐れを知らないサムライが面白すぎて、僕は、介錯されたいぐらい笑い死にしそうでした。 そして、もう何が何か判らなくなってきたサムライは、隣のソファに座っていたノリノリのアメリカ人の女の子と意気投合したらしく、オデコにチュッと口付けをしました。 すると、 その子には彼氏がいたらしく、遥か向こうから、 ランディ・ジョンソン級の剛速ミカンが 「バッチーーンッ!!」 と音を立てサムライの胸に向かって直撃し、 さらに、次の瞬間、彼氏がサムライの胸ぐらに掴みかかってきたのです。 これは、さすがに笑っている状況ではなく、部屋中が騒然とプロ野球の乱闘騒ぎのもみ合いへし合いになり、慌てて2人を引き離しにいきサムライを他の部屋まで避難させました。 それから一段落すると、サムライは彼氏に対し陳謝し、仲直りすることが出来ましたが、 このサムライは、一日に何回、ケンカと和解を繰り返すのでしょうか・・・。 それからのサムライは、少しテンションも下がり、疲れてしまったのでしょう。 ソファにて、サムライ・・・、就寝・・・。 すると、レベッカはサムライの頭のすぐ上のソファで座っていたのですが、デブのアメリカ人がナンパしに来ているじゃないですか?! 僕は、慌ててしまって、お姉さんに 「止めてこなくて良いですかねぇ?」 って聞くと、 「レベッカもまんざらでは無いみたいよ」 と言われたので、よく見ると、デブの足に自分の足を乗せてしまってます。その後の行方を気にする様に、ちらちらと見ながらも、かうと、おねえさんと三人でおしゃべりを楽しみ始めました。 その会話の中で、お姉さんは僕に、 「たおたん君さぁ、さっき、兄さんと私とかう君としゃべってる時に、アメリカ人ってペニー(約1円)をお金と思ってないですよね、って言ったやろぉ?」 「はい、言いましたよ。ホンマに、乞食でさえも落ちてるペニーを拾わないんですよ。 だから、結構ペニーが地面に落ちたままですよね。ニューオーリンズの喫茶店で対応が悪かったんで、怒りのチップで、ペニーを置いてきてやりましたよ!!」 「でも、それ言った時、めっちゃ笑いそうになったわぁ!」 「えっ!?何でなんですか?」 「その話の前に、兄さんと二人で道歩いた時に、そのペニーが落ちててんけど、兄さんが、ラッキー♪って言いいながら拾ってはってん!! 乞食でも拾わへんのになぁ!!」 サムライは、落ち武者でした・・・。 そんな話をしていると、 レベッカとデブが、なんと、なんと、兄さんが酔いつぶれているすぐ5m頭の上で、なにやらポルノ小説を地でいく、めくるめくエロスの世界を繰り広げ始めちゃっています。 この部屋には、20人近くもいるし、さらに君らは30分前に会ったばかりで、さらにろくに英語も通じてないんでしょう・・・? こんな破廉恥行為は、日本人のセンスでは、全く理解できません!! 西洋人には、一体羞恥心というものが無いのでしょうか!!?? キリスト教は、一体全体、どの様な倫理観を説いているんでしょうか!? こいつらに、一度、利休を呼んで日本のワビ、サビを煎じて飲ませてやりたいです!! 僕の心の中には、こんな疑問の念から、怒りの念までが同居しています。言葉が見つからない、言語道断、開いた口がふさがらない、目も当てられないとは、こんな感情なのでしょうか? そんな複雑な想いを胸に、隣に座っているお姉さんの方を見ると、 お姉さんは、黙ってじっと見ています。 「あれっ??なんで?」 僕は、冷静にもう一度自分自身の旅を振り返りました。 う〜〜ん・・・。僕は、一体全体何の為に旅をしているのか? 世界gTの超大国と言われるアメリカ合衆国を自分の足で巡り、自分の見聞・視野を広め、世界の新発見、日本の再確認を行う。 そして、一回りも二回りも大きく成長し、日本で活かし、大きく飛躍する為。それなのに、今、僕は初めからこの破廉恥アメリカ人を否定してかかっている。 ましてや、これは、目の前に存在している現実の世界ではないか! 現実の世界から目を反らして遠ざかり、自分の頭の中の思想に凝り固まり、自分自身のみを正義、善と決め付けてかかっている。 「一体、僕は何しにきてるんだ!」 やっと、間違っていた自分に気付き、固定観念から心が解放された僕は、背中から翼が生えてきて、今にも飛び立ちそうな、そんな爽快な心持ちになりました。 アメリカの旅最終夜に原点に帰ることがようやくできたのです。 なけなしの勇気を振り絞り、目をぐっと見開き、決して目をそらす事なく そして、 二人の営みを、ご馳走になる事にしました・・・。 しかし、しばらくすると、そんなみだらで、あられもない姿の2人に見かねた他の宿泊客が毛布を掛けに行きました。 それでも、気にしない二人はその後も試合続行です。 ここまで来ると、もはや感心するしかありません・・・。 「たおたん〜!!かう〜!!」 と、その時 今、この世で最も聞きたくない人物の声が、耳をかすめました。あまりにも認めたくない現実だったので、耳を疑い幻聴だという事に決め込んでいましたが、 もう一度、 「たおたん〜!!かう〜!!」 聞こえてきたのです。 これは、間違いなく A VOICE OF SAMURAI です。 僕らは仕方がないので、重い足を引きづりながらも兄さんの元に歩み寄りました。 そして、恐る恐る用件を聞くと、 兄さんは目を閉じたまま、しんどそうに 「兄さんが、酔い潰れてるってレベッカに言ってきて〜!」 「む、無理っっスぅぅぅ〜〜!!」 (心の即答) これは、困りました・・・。しかし、迅速かつ適切な対処をしないと、兄さんが起き上がって来てしまうという最悪の事態を招く事になりかねません。 そして、目を閉じて倒れている人の周りで、「どうしよう?どうしよう??」と、あたふたと困惑し、右往左往している僕たちは、さながら白雪姫の7人の小人です。 しかし、状況は、かなり違います。美しい白雪姫の生き返らせ方を悩んでいるのではなく、酔っ払ったサムライの息の根を止めるかどうかを悩んでいます。 さんざん悩んだあげくに、 「はーい♪」 と、カラ返事だけをする事にしました。 人生で、これだけ愛情をを込めた知らんぷりは、この後もした事がありません。 もしも、シランプリグランプリがあれば、間違いなく優勝もんです。 すると、兄さんは何も言ってこないので、もう寝ちゃったのだと思って、お姉さんとまた、おしゃべりを再会している と、 再び、僕らを恐怖へと誘う声が響いてきます・・・。しかも、今度は、さっき僕たちに軽く無視されたので、ご機嫌斜めのご様子です。 「たおたん〜、かう〜!!兄さんが酔い潰れてるから、介抱するように言ってきてよ〜!!」 「レベッカは、 逆に介抱されてますぅ〜!」 (心の即答) もうこれ以上、知らんぷりを続けることは、出来ません。 そう判断した僕は、 「兄さん、レベッカは、もう部屋に帰ったみたいですよ。どこにも居ないんすよ!」 と、嘘をついてしまいました。 嘘 それは、決して気持ち良いものではありません。しかし、こんな状況にあっては、どんな正直者であったとしても嘘をつくでしょう。 例え池にオノを落としてしまったキコリでさえも・・・。 この愛情のいっぱい詰まった嘘が効いたのか、はたまた疲れてしまったからか、兄さんは、ようやく、ぐーぐーと寝息を立てて寝入ってしまいました。 そうして、僕たちのアメリカ一周旅行を締めくくるにふさわしい夜を演出をしてくれた笑いと恐怖に満ち満ちたパーティは、幕を閉じる事となりました。 「さようなら、そして、ありがとう あめーりかー!!」 と、思っていると、翌日・・・。 まだ、続く・・・。 ![]() ![]() ![]() |