スペイン語




僕が、最初に
スペイン語と出会ったのは、かうとアメリカから日帰りで行ったメキシコでした。
何の基礎知識も無かった僕ら
は、まさか、中米から南米までのほとんどの国で、スペイン語が第一公用語として使われていて、英語がほとんど通じない、なんて知りもしませんでした。

ですから、二人で
市場を歩いていて、沢山のメキシコ人達に

「オラァ!!」 「オラァ」 「オラ」 「オラ」 「オラァ」

なんて、言われた時は、、何もしていないんですが、「びくッ」として、いっつもいっつも
怒鳴られたんじゃないかビビリマクリマクリスティでした。

(オラァは、スペイン語で「こんにちは」)

それから、2年後、僕は、メキシコからパナマまで8カ国を縦断する旅にでました。普通の旅人は、
スペイン語会話の本とか辞書とかを持ってくるんですが、僕は、地球の歩き方以外は、手ぶらで、なんとかなるだろうと全くスペイン語を学ぶ気も無く、憶える気も無い、超いい加減な旅が始まりました。


メキシコは、物価が高いので首都、メキシコシティから一気にグアテマラまでバスで行く事にしました。
この距離は、結構時間が掛かってしまうので、
夜行便です。夜行の場合は、大抵運ちゃんが二人になります。

そして、日本の休憩中の運転手さんは、大抵の場合は運転席の隣りに座るか、一番前の席に座るのですが、ここメキシコのバスは、とっても設備が良いので、なんと
最後尾の席の上後ろドラえもんの様な押入れがあるのです。その中には電気まで付いています。

そして、僕の席は
その最後尾でした。押入れの中はとっても狭いので、昼間は、運ちゃんはふすまを開けたままにしてくつろいでいます。すると、ちょうど僕の頭と運ちゃんの顔30cmの距離まで接近します。

会話も全くのゼロなので、超気まずい・・・のです・・・。


そんな
空気を和ます為に、僕はありったけのスペイン語を搾り出して、コミュニケーションを図る事にしました。でも、出て来たのは、

ただ2つ、 

「グラシアス(ありがとう)」
 

「アディオス(さようなら)」


だけです。
あと一晩は、このバスに一緒にいるので、
アディオスはおかしいです。だからといって、なんの脈絡もなく超不自然なのですが言ってみました。

「グラシアース!」


すると、運ちゃんは、

「デナーダ。」

と、言い返してきました。
どの様な意味なのか全く判らなかったのですが、僕の知っている単語はこれだけなので、沈黙を打破するには何回もリピートするしかありません。


「グラシアース!」

「デナーダ。」



一体、この「でなーだ」って何なんでしょう・・・?理解出来ないのでもう一回、言ってみました。


「グラシアス!」


「デナーダ」



おそらく彼は
僕に教えてくれているのでしょう。スペイン語を。

だから、僕は



グラシアス = 
thank you

デナーダ  =
 very much



だと、
解釈することができました。

それからの僕は、しっかりとここで学習した「グラシアス デナーダ」を使ってグアテマラの人たちに、あいさつしていました。

すると、みんな
とてもにこやかな笑顔を見せてくれます。
きっと、日本に来た外国人にでも、


「アリガト」


と言われるよりも、


「ドーモ、アリガトゥゴザイマス。」


って
カタコトでも言ってくれたら嬉しいし、ニヤリとしちゃうんじゃないかなぁって思います。やっぱり、言葉は礼儀正しく使った方が好感を持ってもらえるのですね。


そんな調子で、「グラシアス デナーダ」
半月くらい使っていました。

しかし、この辺りから相手の笑顔に
微妙な違和感を感じ始めました。

そして、急いで僕のバイブル「地球の歩き方」の「
旅のスペイン語」のページを開いて調べました。

すると、そこには



グラシアス  =  ありがとう






デナーダ  = どういたしまして






一人で感謝と謙遜の両方を繰り返し
会話をしていた僕は、完全に中米の桑原和男になっていて、笑わせているのでは無く笑われていたのでした・・・。