|
僕の常識 君の常識
インドへ直接行きたかったんですが、この時期はとても混んでいたので、まずは、ネパールに入って、そこから陸路でインドのバラナシまで入る事になりました。
ネパールの首都カトマンズに到着した僕は、ここからバス一本で世界の屋根と呼ばれるヒマラヤ山脈が眺められる山があるというので、行ってみる事にしました。
その山の名は、ナガルコットと言います。
その山までバスで向かっている車内で一人のネパール人のお兄ちゃんと仲良くなりました。このお兄ちゃんは、カトマンズの大学生で、実家のあるナガルコットに帰るのだそうです。
ナガルコットに着くと、お兄ちゃんはオススメの安い宿を紹介してくれました。荷物を置くと、お兄ちゃんは色々な所を案内してくれました。
それは、ヒマラヤ山脈の見える丘に連れて行ってくれたり、眺めの良い場所へ連れて行ってくれたり。

(とっても親切な、おにいちゃん)
そして、日本人に人気のあるレストランにも連れていってくれました。
そのレストランの名前は、ノリタケハウスというらしいのです。なぜ、ノリタケハウスと言うかというと、店のオーナーがとんねるずの木梨憲武さんに似てるからだそうです。
このお店は日本人バックパッカーの間で、とても有名でこのおじさん見たさに沢山やってくるそうです。その為に、このお店はとても繁盛しているのだとか。
そんな興味深いオーナーに会わせてもらったのですが、ホントにクリソツで、会った瞬間に、思わず笑ってしまいました。
後は、気になるお味の方をと、期待したのですが、お兄ちゃんは違う店で食べると言って、僕を外へと連れ出しました。
お兄ちゃんについていくと、
お世辞にもキレイですねとは言えない
一軒のレストラン
いや、食堂・・・
いやっ、はっきり言って山小屋を案内してくれました。
どうやら、店のおっちゃんと友達らしくて、久しぶりの再会を喜びあっています。で、実は、この店も、日本語のレストラン名がついているのです。
ここにも、手作りの日本語の看板が掲げてあるのです。
その名は、
笑っていいとも
・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・って、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全く、意味が判らないんですけど・・・?
全くタモさんにも似ていないおっちゃんに、名前の由来を聞いてみたのですが、やっぱり、おっちゃんも全く意味を知らないそうです・・・。
では、どういう理由で付けたか聞くと、お兄ちゃんが代わりに答えてくれました。
ノリタケハウスは、いつも日本人の客が大勢入っている一方、この店はというと、閑古鳥が鳴いている状態らしいのです。
そこで、この店に食べに来た日本人に相談したところ、
ここにも日本名の店名を付ければ、日本人がやってくると教えてくれた上に、親切に看板まで作ってくれたそうです・・・。
理屈は判りますが、だからって全く縁もゆかりも無い笑っていいともって・・・。
きっと店の前を通った人たちも、この店の名前のうさん臭さに不信感を抱いて、入らなくなっちゃうと思うんですが・・・。
この名前を付けてくれた人は、人の良いバックパッカーだったのだとは思いますが、きっと、頭の悪いバッカパッカーだったのでしょう。

話はおっちゃんに戻りますが、このおっちゃんは小さな子供をいつもそばに連れています。
どうやら、お母さんがいないようです。どんな理由があったのかは判りませんが、男手一つで、子どもを育てながらこの店を切り盛りしているらしいのです。
なんて、頑張っているおっちゃんでしょうか。
僕はこんなお涙ちょうだいな話が大好きです。
お兄ちゃん、よくぞ、この店を紹介してくれました。どうせなら、こんな頑張っている人の所に少しでもお金を落としたい。
常々そう思っている僕なので、お兄ちゃんとここで夕食を食べる事にしました。もしかしたら、笑っていいともの名付け親も、今の僕と同じ様な心境になったのかもしれません。
知らなかったんですが、ネパールもカレーが主食だそうです。そして、お兄ちゃんが、猛烈にここのカレーは美味しいと僕に薦めてくれるので、2人でカレーを頼みました。
注文後、しばらくして、おっちゃんが僕とお兄ちゃんの2人分のカレーを運んで来てくれました。
その皿を見ると、美味しそうなブロッコリーカレーで、熱々の湯気がもくもくと立ち上っています。
でも、僕はある事に気が付きました。
スプーンがついてない!!
そういえば、インド人は手でカレーを食べます。だから、同じ様な文化を持つネパール人も手で食べるのでしょう。
手で食べてもいいのですが、ただ僕は今日一日よく遊んだので手がすっごく汚れています。
この手でカレー食べると言う事は明日あたり、再びカレーのままの状態で排泄される可能性が大です。
しかし、店内は手が洗えそうな水道の気配ゼロです。
約10畳一間の、木で出来た掘っ立て小屋。地面は土間なので土。席は、座敷になっていて、木の床に、座布団。
そして、木の机の上にカレーが置いてあります。
お世辞にも清潔感溢れる店内ですね。
とは言えない状態です・・・。
すると、カレーを前にして全く食べ始めようとしないフリーズしている僕を見ていたおっちゃんは気が付いてくれたらしく、席を立ち上がり、棚のほうへと向かって行きました。
やっぱり、この店にもスプーンくらいあったのです。そりゃー、日本人客が少ないと言えど、日本語の看板掲げてるくらいなのでスプーンの一つくらい置いてるのです。
戻ってきたおっちゃんは、しっかりと右手にスプーンを持っていてくれました。
「これやろ?これ。ちゃーんと持ってきたったで!!」
と、言わんばかりの百万ドルのスマイル付きです。
そんな優しくて、気が利くおっちゃんに感謝して、
「ありがとう!」
お礼を言ったのですが、それも束の間・・・
・・・ぎょっ・・・!!
僕はそのスプーンを見て、またまたフリーズしてしまいました。
おっちゃんの右手に持っているスプーンは、ただのスプーンではなくて、幾千というホコリでコーティングされているのです。
僕の汚れた手で食べるよりも、ためらってしまう程の代物です・・・。
きっと、スプーンの存在を忘れる程なので、相当長い間放置プレイされていたのでしょう。
ただ、あんなまぶしいばかりの百万ドルのスマイルで持ってこられたので、気が小さい僕は言い出すに、言い出せなくなってしまいました。
なので、
気付いて下さい・・・。
おっちゃん自ら、気付いて下さい・・・
と、心の中で必至に念じていました。
すると、おっちゃんは、またもや僕の困った心中を察してくれ、何かをひらめいたようで、辺りをキョロキョロと見回し始めました。
っていうか恐らく、超引きつっていたであろう僕の表情に気付いてくれたのです。
この動作は、きっとスプーンを拭く物を探してくれているのです。
ただ、どこを見回しても布巾の様なものが見当たりません。おっちゃんの表情は少し曇り出してしまいました。
もしかしたら、この店には布巾という存在自体ないのかもしれません。
しばらくすると、おっちゃんは、さらに何かを閃いたようです。
それまで曇っていた表情から一転、明るい笑顔になったのです。
そして、おっちゃんはどこからか手に取った布で、おもむろにキュッキュッと僕のスプーンを拭き始めたのです。
僕はとっても嫌な予感はしていましたが、恐る恐るその布の正体を確認してみると・・・、
それは、今、まさに、おっちゃんが腰を下ろしている
ボロ座布団っ!?
ここ、しばらく洗濯した事のないであろうズボンと、
ここ、しばらく風呂に入っていないであろう素足で座っている
ボロ座布団っ!!
この世に生を受けてから100%、一度も洗濯してもらったことの無いであろう
ボロ座布団っ!!
そんな・・・ばい菌養殖場のようなボロ座布団で・・・、
僕のお口に運ぶスプーンを・・・、
キュッキュッって・・・。
そして、今度もやっぱり・・・溢れんばかりの100万ドルのスマイルで、僕にスプーンを差し出してくれました。
あまりにも汚れの無いおっちゃんのスマイルに圧倒されてしまった気の小さい僕は、
「一応・・目に見えるホコリは、取れたっぽいけど、今度は目に見えないばい菌が代わりに・・・」
と言えず、
「あ、ありがとう・・・。」
と、1ルピーの苦笑を浮かべながら、スプーンを受け取ってしまいました・・・。
そして、僕は今度は、幾万のバイ菌でコーティングされたスプーンとしばらくの間にらめっこをした後で、カレーを頂くはめになってしまいました・・・。
|
|